コラム
令和5年10月1日に開始される消費税インボイス制度の全体像と注意点

令和5年10月1日に開始される消費税インボイス制度の全体像と注意点

※このコラムは「三井住友カードBiz」2022年12月号に掲載されます。


令和5年10月1日から複数税率に対応した仕入税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が開始されます。今回は、インボイス制度の全体像と注意点についてご説明いたします。


■1.消費税の基本的な仕組みとインボイス制度による変更点
(1) 消費税とは
消費税は、取引全般に広く公平に課税する間接税です。ほぼ全ての国内における商品の販売、サービスの提供及び輸入取引を課税対象とし、取引ごとに標準税率10%、軽減税率8%の税率で課税されます。


(2) 課税の仕組み
事業者は消費者に代わり、消費税の納付をする義務を有しています。 消費税の納税の方法は、預かった売上に係る消費税額から支払った仕入れ等に係る消費税額を差し引いた金額を納税することとなっています。


(3) インボイス制度による変更点
インボイス制度開始以後は、(2) の仕入れ等に係る消費税額を差し引くために取引先から適格請求書(インボイス)の受領及び保存が必要となります。 仮に、取引先から適格請求書(インボイス)を受領することができない場合には、これまでとは違い、仕入れ等に係る消費税額を差し引くことができず、納税に対する負担が増加することになります。


■2.適格請求書等保存方式の概要(インボイス制度)
(1) 適格請求書等保存方式とは 複数税率に対応したものとして開始される、仕入税額控除の方式です。具体的には、買手が仕入れ等に対して支払った消費税額の控除を受けるために、売手から交付を受けた「適格請求書」等の保存が必要となります。


(2) 開始時期
令和5年10月1日開始となります。


(3) 適格請求書とは
売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、登録番号のほか、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類するものをいいます。
(適格請求書の記載事項)
・適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
・取引年月日
・取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
・税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
・税率ごとに区分した消費税額等
・書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
※不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等に係る取引については上記の記載事項のうち、「書面の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載の省略等が可能。(適格簡易請求書)


(4) 電子帳簿保存法との関連性
適格請求書は、書面での交付に代えて、電磁的記録(電子データ)で提供することができます。(電子インボイス)その際の記載事項は書面で交付する際と同じです。 提供方法として、EDI取引、電子メール送信、インターネット上のサイトを通じた提供、記録用媒体での提供などがあります。


(5) 複数の書類による対応
適格請求書とは、一定の事項が記載された請求書、納品書等これらに類するものをいいますが、一の書類のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、請求書と納品書など相互が関連する複数の書類全体で記載事項が満たされておれば、これらの複数の書類を合わせて一の適格請求書とすることが可能です。


(6) 税率ごとに区分した消費税額等の端数処理
適格請求書等保存方式においては、一の適格請求書につき、税率ごとに区分して合計した金額に対して1回の端数処理を行います。(端数処理の方法として「切上げ」「切捨て」「四捨五入」は任意) したがって、個々の商品ごとに消費税額等を計算し、端数処理を行い、その合計額を税率ごとに区分した消費税額等として記載することが認められないため、これまで、個々の商品ごとに消費税の計算を行ってきた場合には、システム等の改修・変更が必要となります。


■3.適格請求書発行事業者の登録申請手続き
(1) 適格請求書発行事業者になる(登録を受ける)には 令和5年10月1日から登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに登録申請手続きを行う必要があります。


(2) 適格請求書発行事業者になると
登録は、消費税の課税事業者が受けることができます。適格請求書発行事業者になると、課税事業者の要件を満たさず免税事業者に該当する課税期間が到来しても、登録の効力が失われない限り、消費税の申告・納税が必要となります。 登録の効力を失効させ免税事業者になるためには、適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める届出書を提出する必要があります。


(3) 免税事業者の登録申請手続き
免税事業者が登録を受ける場合には、原則として、消費税課税事業者選択届出書を提出し自ら消費税の申告・納税をすることを選択する必要がありますが、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、消費税の課税事業者選択届出書を提出しなくても、登録申請書を提出すれば登録を受けることができ、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。
なお、上記の経過措置の適用を受けた場合は、登録を受けた日から2年を経過する日の属する課税期間(法人であれば事業年度、個人の場合は暦年)の末日までは、免税事業者となることはできません。免税事業者となるためには、登録取消届出書の提出が必要となります。


(4) 簡易課税制度を選択する場合の届出書
簡易課税制度は、基準期間(一般的には法人であれば前々事業年度、個人であれば前々年)の課税売上高が5,000万円以下であり、原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税選択届出書」を提出している場合に選択することができます。
免税事業者が(3) の経過措置の適用を受ける場合には、登録申請書を提出した課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば、当該課税期間から簡易課税の適用を受けることができます。


■4.実務上の留意点
(1) 売手側の留意点
(適格請求書発行事業者の義務)
・適格請求書の交付
→ 買手側の求めに応じて、適格請求書を交付する。記載事項は前述のとおりです。なお、前月以前の売上値引き等を差し引いて請求する場合、取引先ごとの継続適用を要件に、適格請求書と適格返還請求書それぞれに必要な記載事項を記載して1枚の請求書で交付することも可能です。
・適格返還請求書の交付
返品等の際に適格返還請求書を交付する
・修正した適格請求書の交付
→ 交付した適格請求書に誤りがあった場合に修正した適格請求書を交付する。この際、修正点を含めすべての事項を記載した書類を改めて交付する方法と、関連性を明示したうえで、修正した箇所のみを記載した書類を交付する方法のいずれかを選択できます。
・写しの保存
→ 交付した適格請求書の写しを保存する。この写しに関しては、交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります。


(2) 買手側の留意点
(仕入税額控除の要件)
一定の事項を記載した帳簿及び適格請求書などの請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります。
※請求書等
〇売手が交付する適格請求書又は適格簡易請求書
〇買手が作成する仕入れ明細書等
〇卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食品等の譲渡及び農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について、受託者から交付を受ける一定の書類
〇上記の書類に係る電磁的記録


(現行法令との相違点)
・現行法令では、「3万円未満の課税仕入れ」及び「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められることが規定されていますが、インボイス制度開始以後は、これらの規定は廃止され、少額の内容であっても適格請求書の交付を受ける必要が出てきます。
・現行法令では、仕入先から交付された請求書等の内容に記載漏れがあった場合、交付を受けた事業者自らが取引の事実に基づき追記することができますが、インボイス制度開始以後は、このような追記をすることができないため、仕入先から正確な内容が記載されたインボイスを受け取る必要があります。


(簡易課税制度を選択している場合)
簡易課税制度の計算の特性上、適格請求書などの請求書等の保存は、仕入税額控除の対象とならないため、必要ありません。


(適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れ)
免税事業者や消費者など、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れは、原則として仕入税額控除の適用を受けることはできないため、取引を継続的に行う場合には実質的に消費税の納付負担が増加することになります。
ただし、制度開始後6年間は、免税事業者等からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

経過措置の期間 控除割合
令和5年10月1日~令和8年9月30日 80%控除可能
令和8年10月1日~令和11年9月30日 50%控除可能
令和11年10月1日~ 控除不可
(適格請求書発行事業者の確認方法)
国税庁のHPに「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」にて取引先が登録事業者となっているかを事前に確認することが可能です。また、実際に交付を受ける請求書等の書面に「適格請求書発行事業者の登録番号」の記載があるかどうかで確認することが可能です。
なお、制度開始前に取引先に適格請求書発行事業者の登録をする予定かどうかの聞き取りを行い、情報を整理しておくことをお勧めします。


今回は、令和5年10月1日から始まるインボイス制度について全体像をご説明してまいりました、実際には会社ごとに具体的な取引に基づいた制度への対応を検討する必要があるかと思います。
弊社では顧問先の企業様に向けてインボイス制度の内容のご説明や、具体的事例に合わせた対応方法をご提案させていただいております。 ご興味のある方は、一度お問い合わせをお願いいたします。

税理士 内田 将希

 

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