相続税・贈与税が増税に!?「タワマン節税」に歯止めをかけるマンションの相続税評価の見直しについて
※このコラムは「三井住友カードBiz」2023年12月号に掲載されます。
不動産の相続税評価額は、市場価格よりも低い場合が多く、土地は市場価格の約80%、建物は市場価格の約60%と言われています。
マンションについては、相続税評価額と市場価格が大幅に乖離しているケースが多く、国税庁の調査によると、マンションの約65%が、相続税評価額が市場価格の50%以下となっているようです。
そのため、マンションを購入することにより、その購入価額(市場価格)と相続税評価額の差額分が財産の圧縮となり、相続税を節税できるため、相続対策として利用されていました。
しかし、市場価格と相続税評価額の乖離が高い不動産については、租税負担の公平に反するという点で問題になっており、令和4年4月19日の裁判では、納税者側が敗訴しています。
(※令和4年4月19日付判決(最高裁判所第三小法廷)相続税更正処分等取消請求事件)
そこで、マンションの相続税評価について、市場価格との乖離の実態を踏まえた上で、マンションの評価の見直しが行われることになりました。
【評価額の見直しについて】
相続税評価の見直し案は次のようになっています。
今回の見直し案の評価については、区分登記がされており、居住の用に供する専用部分があるものが対象となります。(2階以下のもの(地下を除く)、二世帯住宅等は除きます。)
よって、区分所有されていないマンション(マンション一棟を所有している場合等)やテナントオフィスは対象外となります。
この評価は令和6年1月1日の相続又は贈与から適用されます。
なお、次からの計算式は複雑ですので、飛ばしていただいても大丈夫です。
ざっくり見直しの評価額を説明すると、乖離率の大きいものについて、現行の相続税評価額を市場価額に補正して、その補正後の価格の60%の評価となるイメージです。
(1)現行の相続税評価額
建 物:建物の固定資産税評価額×1.0
敷地権:路線価×補正率×地積×敷地権割合(路線価方式)
(2)見直し案の評価額
①評価水準が1を超える場合
現行の相続税評価額×評価乖離率
②評価水準が0.6~1の場合
現行の相続税評価額
③評価水準が0.6未満の場合
現行の相続税評価額×評価乖離率×0.6
※この0.6については、一戸建ての評価乖離率の平均が60%というのを根拠としています。
④評価水準が0またはマイナスの場合
評価額0
(評価水準)
1÷評価乖離率
(評価乖離率の計算)
A+B+C+D+3.220
「A」当該一棟の区分所有建物の(※1)築年数×△0.033
「B」当該一棟の区分所有建物の(※2)総階数指数×0.239(小数点以下第4位を切り捨て)
「C」当該一室の区分所有権等に係る(※3)専有部分の所在階×0.018
「D」当該一室の区分所有権等に係る(※4)敷地持分狭小度×△1.195(少数点以下第4位を切り上げ)
(※1)「築年数」は、当該建物の建築の時から課税期間までの期間とし、1年未満の端数は1年とする。
(※2)「総階数指数」は、当該建物の総階数÷33とする。
1を超える場合は1とし、総階数には地階は除く
(※3)「専用部分の所在階」が複数階にまたがる場合には、階数が低い階とする。
また、「専用部分の所在階」が地下の場合には0階としCの値は0とする。
(※4)「敷地持分狭小度」は、当該一室の区分所有権等に係る敷地利用権の面積÷当該一室の区分所有権等に係る専用部分の面積とする。(少数点以下第4位を切り上げ)
【評価の見直しによる相続税評価額の増加額】
-前提-
(1) | 築年数 | 40年 |
(2) | 総階数 | 8階 |
(3) | 所在階 | 4階 |
(4) | 一室の区分所有権に係る敷地利用権の面積 | 82.5㎡ |
(5) | 専有部分の面積 | 88.5㎡ |
(6) | 敷地持分狭小度「(4)/(5)」 | 0.933 |
(7) | 現行の相続税評価額 | 15,370,000 |
「A」 | 40年×△0.033 | △1.32 |
「B」 | 8階×0.239 | 1.912 |
「C」 | 4階×0.018 | 0.072 |
「D」 | 0.933×△1.195 | △1.115 |
評価乖離率 「A」+「B」+「C」+「D」+ 3.220 = 2.769
評価水準 1 ÷ 2.769 = 0.36…
(見直し案の評価)
評価水準が0.6未満
15,370,000×2.769×0.6 = 25,535,718
(評価額の増加額)
25,535,718 - 15,370,000 = 10,165,718
このように、マンションの評価については、大幅に増加することが見込まれます。
【相続税更正処分等取消請求事件について】
最後に、上記に記載した裁判事例を説明させていただきます。
-裁判事例-
(1)被相続人は、平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円を借り入れ、甲マンションを8億3,700万円で購入
(2)被相続人は、平成21年12月に相続人から4,700万円、信託銀行から3億7,800万円を借り入れ、乙マンションを5億5,000万円で購入
(3)3年後に被相続人が死亡し、相続人はこのタワーマンションを甲乙合わせて約3億円で評価、借入金もあり相続税が0で申告を行った。
(4)税務署は平成28年4月に相続人の計算した相続税評価額は、実際の時価と著しい乖離があり、課税の公平という観点から問題であるとして、不動産の評価を「時価」の合計額8億8,874万9,000円、相続税額を2億4,049万8,600円として、増額更正処分を行った。
この事例は、マンションの購入が相続税の負担を減少させ又は免れさせるものであることを知った上で、その効果を期待し、あえて実行したという点で、マンションの購入や借入をしなかった、またはすることのできない他の納税者と不均衡を生じさせるという理由から、このような処分が下されました。
令和6年1月1日からはこのマンションの評価の見直しのほか、贈与の持ち戻し期間の延長や相続時精算課税制度の110万円の基礎控除の新設も開始し、直前の相続対策がより難しくなっていきますので、早い段階での相続対策がより必要となります。
相続に関してお困りのことがありましたら、ご連絡いただけると幸いです。
税理士 足立 佳孝
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