50代経営者が今から始める事業承継・M&A準備|役員退職金・生命保険・会社のお金の見直し
※このコラムは「三井住友カードBiz」2026年8月号に掲載されます。
後継者をどうするか、まだ具体的には決めていない、創業期から残ったままの役員借入金がある、加入している生命保険は大昔に見直したきり放置している、といった課題を抱えている中小企業のオーナー社長は少なくありません。
退職金をいくら出せるのか、そもそも自社にどの程度の価値があるのかが分からないまま、日々の経営に追われているケースも多いものです。会社の将来や引退に向けた整理は、想像以上に時間がかかります。今から準備していきたいところです。
【1】役員貸付金・借入金や親族間取引など、見落としがちな財務の整理
将来の方向性を検討するにあたり、まず確認したいのが財務諸表の整理です。オーナー企業において、社長個人と会社の間での資金の行き来である役員貸付金や役員借入金が滞留しているケースがよく見られます。
これらは通常の営業活動においては問題にならなくても、M&Aで第三者に会社を譲渡する場合や、親族・従業員が事業を引き継ぐ場面では対応が必要になります。特に役員貸付金や関連会社取引は、決算書上の数字だけでなく、発生理由や取引条件を説明できるかが見られます。
決算書上は黒字であっても、社長個人との貸し借りや親族会社との取引が未整理のまま残っていると、承継やM&Aの検討に入った時点で説明と整理に時間を取られます。取引価格の根拠が曖昧な売買や資金移動がある場合も同様です。これらの科目を精査し、客観的に説明できる状態に整えておく必要があります。
【2】決算書には載らない会社の価値と社長依存のリスク
自社の価値を把握する際、税務上の相続税評価額と、実際のM&A市場における売買価格は必ずしも一致しません。決算書に記載されている純資産や直近の利益はベースにはなりますが、それだけで価格が確定するわけではありません。
実際の譲渡や承継の現場では、長年培った取引先との関係性、従業員の持つ技術力やノウハウ、将来的な市場の成長性といった決算書に表れない要素が企業価値に影響します。
ここで実務上、課題となりやすいのが社長への依存度です。社長が営業、採用、資金繰り、主要取引先対応を一人で担っている会社は、利益が出ていても、社長が退いた後に同じ利益が残るかを確認されます。社長が不在になると売上が維持できない構造の会社は、第三者から見ると引き継ぎリスクが高いと判断されやすくなります。
社長個人に頼らない組織へとシフトしていくにはどうしても時間がかかります。今のうちから、業務の見える化や幹部社員への引き継ぎを少しずつ進めておきたいところです。
【3】役員退職金の支給設計と生命保険のミスマッチを防ぐ
親族内承継、従業員承継、あるいは第三者への譲渡など、どの道を選ぶにしても、経営者自身の引退後の生活資金の確保は大きな問題です。その中心となる役員退職金は、支給時期や金額だけでなく、過去から現在までの役員報酬の推移、在任期間、職責、会社の資金繰りとあわせて検討します。
将来の支給に備えて、あらかじめ支給方針や算定根拠を整理し、役員報酬の推移を確認できる状態にしておくことが望ましいです。退職直前に役員報酬を大きく変更している場合など、その理由や会社状況との整合性を説明できなければ、退職金を支給する段階になって税務上の指摘を受けるリスクが生じます。
また、退職金原資として生命保険を活用する場合は、解約返戻金のピーク時期や返戻率の推移の確認が必要です。加入したまま放置していると、解約返戻金のピーク時期と想定する引退時期が合わなくなり、想定していた資金を確保しにくくなることがあります。将来の引退時期の目安と会社の財務状況を擦り合わせておく必要があります。
【4】 50代経営者が確認しておきたい10の実務チェックリスト
50代のうちに確認しておきたいポイントを4つの視点に分けてまとめました。まずは、自社に当てはまる項目がないか確認してみてください。
(1) 財務・資金のクリーン度
・役員貸付金・役員借入金の正確な残高はいくらか。その発生理由を第三者に客観的に説明できるか。特に役員貸付金が残ったままになっていないか。
・社長個人の債務保証(連帯保証)の状況はどうなっているか。金融機関からの借入金に対していくら設定されているか。
・関連会社や親族の会社との取引において、明確な契約書や価格の算定根拠はあるか。不透明な資金の行き来になっていないか。
(2) 企業の価値と組織
・特定の取引先に売上の大部分を依存していないか。その取引先との基本契約書は最新の状態か。
・自社独自の技術や業務プロセスが書面化され、社長以外の従業員でも再現できるか。
・社長が営業、採用、資金繰り、主要取引先対応を一人で担っていないか。社長が不在になった場合の業務への支障はどの程度か。
(3) 税務・リタイア資金の準備
・役員退職金の支給方針や算定根拠は整理されているか。過去から現在までの役員報酬の推移を確認できるか。
・現在加入している生命保険の解約返戻金が最大になる時期は具体的に何年何月か。引退時期とずれていないか。
(4) 組織と承継の土台
・親族や社内に事業を引き継ぐ意思のある後継者候補はいるか。本人と具体的に話し合ったことはあるか。
・社長が第一線を退いた後、新しい経営陣を支える右腕となる幹部社員が育っているか。
これらの10項目は、将来的にM&Aや事業承継を進める過程で確認をされやすい実務上の要所です。50代の段階であれば、現状で課題が見つかったとしても、数年かけて計画的に是正していくための時間を確保できます。
【5】まとめ:50代は将来に向けた貴重な準備期間
会社の将来に向けた財務や組織の整理は、短期間で完了できるものではありません。経営者としてまだ十分に活動できる50代だからこそ、客観的な視点で自社を見つめ直し、実務的な準備を進めることができます。
早い段階で現状を把握することで、将来に承継やM&Aの話が出た際に、説明や整理にかかる時間を減らせます。
【6】当事務所へのご相談について
・「まだ会社を売却する・引き継ぐと決めたわけではないが、自社の客観的な価値だけは一度知っておきたい」
・「加入している生命保険の解約返戻金のピーク時期と将来の引退時期が一致しているか見直したい」
・「具体的な後継者が未定なので、今から何を整理すべきか確認したい」
本格的な手続きに移行する前の、情報収集や現状把握を目的とした段階でもご相談をいただけます。
現在の会社の状況をお伺いし、今から確認しておきたい項目を整理いたします。お気軽にご相談ください。
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