コラム
バックアップを取っていた企業の8割が復元できない。ランサムウェア被害の実態

バックアップを取っていた企業の8割が復元できない。ランサムウェア被害の実態

※このコラムは「三井住友カードBiz」2026年12月号に掲載されます。


ランサムウェアの被害にあった企業の約9割は、バックアップを取得していました。それでも被害前の状態に復元できたのは、そのうち2割程度にとどまります。


ランサムウェアは、企業のデータを暗号化して使用できなくし、復旧の対価として金銭を要求する不正プログラムです。近年は、データを盗み出したうえで「支払わなければ公開する」と脅す手口が被害の多くを占めています。
もし、会計データが暗号化されれば、請求も支払も決算も止まります。また、顧客情報の流出を伴えば、信用の回復にはさらに時間がかかります。


今回のコラムでは、警察庁が令和8年3月に公表した最新の統計をもとに、被害の実態と、バックアップを機能させるために費用をかけずに着手できる対策を説明します。

被害の約6割は中小企業

令和7年のランサムウェア被害報告件数は226件で、高水準が続いています。このうち組織の規模別では、前年と同様に中小企業が約6割を占めました。 攻撃者は特定の企業を狙い撃ちするのではなく、侵入できる隙のある組織を広く探しています。対策が手薄になりがちな中小企業ほど対象になりやすいのが実情です。
業種別では製造業が約4割を占め、卸売・小売業、サービス業、情報通信業が続きます。ただし被害は幅広い業種で確認されており、業種によって安全というわけではありません。


項目 令和7年の状況
被害報告件数 226件
中小企業の割合 約6割
最多の業種 製造業(約4割)
主な侵入経路 VPN機器(6割以上)
出典:警察庁サイバー警察局「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年3月)

なお、この数字は警察に報告された件数です。公表せずに対応した事例を含めれば、実際の被害はこれを上回ると考えられます。

侵入経路の大半は不審なメールではない

ウイルス感染と聞くと、多くの方が不審なメールの添付ファイルを思い浮かべると思いますが、現在のランサムウェアは、メールからはほとんど入ってきません。
被害組織へのアンケートによれば、侵入経路はVPN機器が6割以上を占めています。リモートデスクトップを含めると、大半がこの2つになります。


VPNは、外出先や自宅から社内ネットワークに接続するための仕組みです。テレワークの普及に伴って導入した企業も多いと思います。攻撃者はこの入口に対し、次のような弱点を狙ってきます。


・修正プログラムが適用されていない機器の脆弱性。
・他のサービスから漏えいした認証情報の使い回し。
・推測されやすい単純なパスワード。
・初期設定のまま放置された管理画面。


いずれも従業員の不注意ではなく、機器の管理の問題です。つまり「怪しいメールを開かない」という教育をどれだけ徹底しても、この経路は塞げません。


侵入後、攻撃者はすぐにはデータを暗号化せず、管理者権限の奪取やセキュリティ機能の無効化を試みながらネットワーク内部を探索し、重要データとそのバックアップの所在を調べます。その後、データを外部に持ち出したうえで、最後に暗号化を実行します。

バックアップも一緒に暗号化される

バックアップを取得していても、被害前の状態に戻せるとは限りません。令和7年のアンケートでは、有効回答116件のうち105件、約9割がバックアップを取得していました。しかし復元結果を見ると、有効回答99件のうち復元できたのは20件、約2割にとどまります。
警察庁はその理由も集計しています。最多は「バックアップの暗号化・消去」で、3分の2を占めます。残る4件に1件は「運用不備」です。


復元できなかった理由 件数 割合
バックアップの暗号化・消去 48件 約67%
運用不備 19件 約26%
その他 5件 約7%
出典:同報告書 統計編

バックアップの暗号化・消去(約67%)

警察庁は、攻撃者がネットワーク内部を探索する段階でバックアップを物色し、復旧を妨害するために一緒に暗号化する事例が多いと指摘しています。バックアップは、守りの手段であると同時に、攻撃者の標的といえます。鍵になるのは、バックアップを本体から切り離しておくことです。攻撃者が本体に侵入したとき、そこから手が届く場所にバックアップがあれば、一緒に暗号化されます。 次のような運用はいずれも危険です。


・バックアップ用の外付けHDDをパソコンに常時接続したままにしている。
・社内の別のサーバーの共有フォルダにバックアップを置いている。
・バックアップ元と同じ認証情報でバックアップ先にアクセスできる。


対策の第一歩は、接続を切ることです。バックアップの取得後にケーブルを抜いておくだけでも、暗号化される範囲は大きく変わります。手間はかかりますが、費用はかかりません。


運用不備(約26%)

攻撃を受けるまでもなく、自社の取り方に問題があって戻せなかったケースです。


・バックアップの対象から、必要なファイルが漏れていた
・保存はされていたが、データが破損していた
・いつから失敗していたか分からないまま、エラーが放置されていた
・復元の手順を知る担当者が不在だった


バックアップは、取得することが目的ではなく、復元できることが目的です。実際に復元を試していなければ、これらの問題に気づくのは被害に遭ったときです。年に一度で構いませんので、手順の確認を兼ねてバックアップから実際にファイルを1つ取り出してみる機会を設けてください。

3-2-1ルール

バックアップの設計として広く知られているのが3-2-1ルールです。

(1) データを3つ持つ(本体とバックアップ2つ)
(2) 2種類の異なる媒体に保存する(外付けHDDとクラウドなど)
(3) うち1つは別の場所に置く


3番目は、火災や水害で一度に失わないための備えです。ランサムウェア対策としては、ネットワークから切り離された保管先を1つ確保する意味も持ちます。


バックアップ先として外付けHDDとクラウドストレージの併用で実現できます。会計ソフトをクラウド版で利用している場合、データは自動的に社外で保管されるため、3番目の要件を満たしやすくなります。


ただし、バックアップは復旧のための備えであり、情報の流出そのものを防ぐものではありません。攻撃者はデータを盗み出したうえで暗号化します。すぐに復旧できたとしても、顧客情報が外部に渡った事実は残ります。流出を防ぐには、VPN装置の適切な運用・管理など、侵入経路の管理が欠かせません。
それでも、3-2-1ルールを満たしたバックアップがあれば、業務を立て直せます。

バックアップの見直しをご検討の方へ

当事務所ではITに関するご相談も承っております。バックアップの見直しやクラウド会計への移行をご検討の際は、お気軽にお声がけください。

 

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