コラム
手遅れ廃業にならないために検討すべき事業承継の4つの選択肢

手遅れ廃業にならないために検討すべき事業承継の4つの選択肢

※このコラムは「三井住友カードBiz」2023年6月号に掲載されます。


中小企業の経営者の方々が直面している問題として“後継者問題”があります。
優秀な企業であっても、後継者への事業の継承が進まず、経営者の高齢化・健康問題が発生した場合に経営を継続することが難しくやむなく廃業せざるを得ないケース(手遅れ廃業)が多くあり、経済全体にとっても大きな痛手となっているのが事実です。
そこで、今回は手遅れ廃業にならないための事業承継の選択肢について詳細に解説したいと思います。


事業承継は、その名のとおり事業そのものを承継する行為ですが、単純にビジネスだけを承継するだけではなく会社の資産・負債や従業員の雇用等、すべてを引き継ぐことを意味します。


【1】中小企業の後継者問題についての実態調査


中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%、廃業を予定している企業は57.4%
出典:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」


2023年3月に日本政策金融公庫が中小企業における事業承継問題の実態を明らかにするために「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」を行いました。
この調査により中小企業の過半数が廃業を予定しているという実態が明らかになりました。
結果は下記のとおりです。


(1) 中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%にとどまり、57.4%が廃業を予定。
後継者候補を長男とする割合が、後継者が決定している企業で33.7%、後継者候補がいる未定企業で33.5%となっているなど、子どもを後継者候補とする企業割合が高いです。


(2) そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない廃業予定企業が約45.2%
廃業予定企業の廃業理由はそもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない割合が45.2%で最も高く、理由としては経営者個人の感性・個性が欠かせない事業だからという経営者の属人的な資源や能力に関するものが多く挙げられました。


(3) 事業承継支援に一定のニーズ
外部機関や専門家などから支援を受けたいかどうかを尋ねたところ、事業承継に向けた経営状況・経営問題の把握について将来支援を受けたいと回答した企業が後継者決定企業で15.6%、未定企業で19.7%と一定のニーズがあることがわかりました。


【2】事業承継の4つのパターン


(1) 親族内承継
親族内承継は事業承継の選択肢としては定番の方法であり、前述のアンケートでも最も多く検討されている方法です。この選択肢は、経営者がご自身の事業を血縁者に継がせたい場合に適しています。
親族内承継のメリットとしては以下のようなものがあります。
[1] 経営者の意思を継いで経営を継続することができるため、事業継続性が高まります。
[2] 経営者と後継者との信頼関係が築きやすく、事業継承の成功率が高まることがあります。
[3] 株式譲渡や経営権移譲などの手続きが簡単であるため、手続きに関するトラブルや費用が少なくて済むことがあります。
一方、親族内承継のデメリットとしては、以下のようなものがあります。
[1] 家族内でトラブルが発生することがあります。経営権や株式など、財産を巡る争いが起こることがあります。
[2] 後継者に経営者としての資質が求められます。経営に関する知識やスキルを持ち合わせていない場合、事業継承が難しくなることがあります。
[3] 経営者と後継者との距離が近いため、経営の偏りが生じることがあります。例えば、後継者が親の好みや思い入れに左右され、新しいアイデアやビジョンが生まれなくなることがあります。


(2) 社内承継
社内承継は事業を他の役員や社員に引き継ぐことを意味します。この選択肢は、経営者がご自身の信頼できる役員や社員に事業を引き継がせたい場合に適しています。
社内承継のメリットとしては以下のようなものがあります。
[1] 社員が自分の将来に関心を持つことができるため、モチベーションアップにつながるケースがあります。
[2] 社内で育った人材が後継者になるため、事業の継続性が高まることがあります。
[3] 株式譲渡や経営権移譲などの手続きが簡単であるため、手続きに関するトラブルや費用が少なくて済むことがあります。
一方、社内承継のデメリットとしては以下のようなものがあります。
[1] 後継者が資金的に余裕なく、承継が進まないケースがあります。
[2] 後継者が、先代の好みや思いに左右され新しいアイデアやビジョンが生まれにくくなる場合があります。
[3] 後継者が経営に関する知識やスキルを持ち合わせていない等の理由で、事業が後退する場合があります。


(3) M&A
M&Aは事業を外部の企業に引き継ぐ(譲渡)することを意味します。この選択肢は、事業の規模拡大や事業価値の最大化を図りたい場合に適しています。
M&Aのメリットとしては、以下のようなものがあります。
[1] 外部の企業に株式譲渡等を行う際に、譲渡代金としてまとまったキャッシュを受けることができます。
[2] 会社の資産だけではなく、負債(借入・保証)も第三者に引き継ぐことができます。
[3] 外部の企業と協業することで新たな市場に進出し、新たな製品・サービスを提供することができ、コスト削減や生産性の向上に効果があります。
[4] M&Aによって譲渡先の企業の人材を確保でき、新たなビジネスに必要な人材を獲得できる場合があります。
一方、M&Aのデメリットとしては、以下のようなものがあります。
[1] 譲渡先企業を選定する時間的余裕と、譲渡代金を交渉する専門家のサポートが必要です。
[2] 異なる企業文化や経営方針の統一を図るためにM&A実行後も一定の調整期間が必要な場合があります。


(4) 廃業
事業承継というわけではないのですが、承継が難しい場合は、廃業も一つの選択肢ではあります。廃業は、会社の資産・負債をすべて清算し、残ったお金は株主に配当されます。
後継者探しが不要ではありますが、経営者が受け取るお金が少なくなり、従業員を解雇しないといけないなど、最後の手段と言えるかと思います。


【3】事業承継を検討する際に知っておきたいポイント


(1) 事業承継税制
事業承継税制とは、事業を承継する際の納税の負担を軽減する税制のことです、 事業を親族や社員に無償で承継する場合、相続税や贈与税の課税対象となりますが、後継者が会社の事業を継続させることを条件に本来かかる相続税や贈与税を猶予・免除するという制度になります。
なお、税金が免除になるためには、後継者が事業を継続させ、将来的に次の後継者にバトンタッチができて初めて免除されるため、免除になる前の状態はあくまでも猶予されている状態になります。
事業承継税制の内容を簡単にまとめると下記のとおりになります。
なお、事業承継税制には、一般措置と特例措置(令和9年12月31日まで)があり、特例措置の内容をカッコ書きで記載します。
[1] 総株式数の最大2/3まで、贈与税の100%猶予、相続税の80%猶予(全株式の贈与税・相続税の100%猶予)
[2] 複数の株主から1人の後継者を選べる(複数の株主から最大3名まで後継者を選べる。)

事業承継税制を利用すれば、親族内、社員どちらに対する承継であっても、承継時に発生する株式等の承継に関する金銭的な負担をクリアすることが可能となります。
ただし、事業承継税制は非常に複雑であり、適用条件や範囲などは専門家のサポートが必須といえます。
弊社では、事業承継税制に関するサポートを多く手掛けておりますので、詳しくは下記のページをご覧ください。
事業承継税制


(2) M&Aのイメージ
M&Aはどのように進んでいくかイメージがわかない方が多いと思います。
M&Aは大きく以下のような工程で進められます。
[1] 検討段階
M&Aを実施する時期や、目安の譲渡代金、従業員の雇用問題などの希望を明確化し、相手企業の選定を行います。
[2] 交渉段階
相手企業との交渉を進め、企業価値評価を行い、譲渡代金や契約条件などを決定します。
[3] 契約締結
譲渡契約書や株式移転契約書などの契約書を作成し、合意に達したら、署名・交付を行います。
[4] 業務統合
譲渡後、今まで行ってきたビジネスについて相手先企業のサポートを行う場合があります。


上記のとおり、M&Aを検討する際には、多くの工程があり、特に相手先企業の選定については、情報を持っている専門家のアドバイスや支援を受けることでスムーズなM&Aを進めることができます。
M&Aの専門家には、投資銀行、法律事務所、会計事務所、コンサル会社など、それぞれが得意とする分野やサービス内容が異なるため、自社のニーズに合わせた相談先を選ぶことが大切です。
なお、弊社でも顧問先からのM&Aのご相談件数は、年々増加しており検討段階からサポートさせていただいております。


最後に、事業承継はどの選択肢を選ぶかによって内容が大きく異なります。
日頃から、事業承継税制やM&Aに強い顧問税理士を選ぶことによって、現在の経営環境だけではなく将来の会社の存続についてもサポートを受けることが可能です。
弊社は事業承継に関して専門部門を設けて対応しておりますので、少しでも不安に思うことや、より詳細な情報を聞いてみたいという際には、一度弊社までご相談ください。


税理士 内田 将希

 

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